■浮遊体アートオリジナル  ■浮遊体アートコレクション  ■習作品 

>浮遊体アートオリジナルとは  >記憶の捏造  >生命の捏造  >育黄  >重力の捏造

          ・画像「記憶の捏造」  ・詩「記憶の捏造」 

浮遊体アートオリジナル 「記憶の捏造」

詩「記憶の捏造」


記憶の捏造

なぜあなたはくらげをつくるのですか?

子供の頃から海にあこがれて
すきとおった素材がすきだから
親父が水槽狂いだったんですよね
くらげに思い入れなんてありません仕事ですから
くらげ屋のわたしに
幾度も繰り返し放たれたこの問いかけに
問われた数だけ答を産み出してきたけれど
問いかけにむけて放たれた 色とりどりのわたしの声たちは
いまでは記憶の底の闇にすっかりとにじんで
あれも これも もう見分けがつかない


おまえはほんとうにくらげなのですか?

夜更けに くらげ抜く型を暖めていると
それはいつか正月の空に放った凧のようにも見える
そもそもわたしは水中パラシュートの開発をしていたのだ
いやいや舞台の実験水槽を泳ぐ古代のタコをつくろうとしていたのだ
それはたんぽぽの種のように青い空から舞い下りてきたのだ
いや雨上がりのキノコのように かび黒い地面から生え出してきたのだ
暖かくもつれた記憶の地層から
ある夜 無数の菌糸がしみだして花開き
わたしの水槽をいきいきと泳ぎ出す


どうしてわたしはくらげをつくるのだろう?

けだるい昼寝から覚めた夕立の頃は
たまり水の記憶がわたしをさそう
父と行った海辺のしおだまりを 逃げ遅れたタコが泳いでいる
沼でつかまえたおたまじゃくしが ひからびた水槽を抜け出していく
かび臭い実験室のビーカーを 高分子化合物の破片がゆらめいている
「水槽を洗ってから、遊びに行け!」
父の声にふりかえると
たどってきた道筋はとっぷりと夕暮れて
声を出したはずの父の姿はもうどこにもなく
生まれたばかりのわたしの息子が 水槽のきらめきをのぞきこんでいる
いつしか
はるか水槽のかなたから
たどってきた道筋は夜明けをむかえ
記憶のこたえは未来とおなじ 無限の可能性に満ちている
←back    ↑SiteTop    next→   

All Contents Copyright Sougeikan All Rights Reserved.